TRPG「魔法使いと工房と庭」 - 大いなる魔法

自由の時代、回顧

魔法の大部分が人の手に落ちてからというもの、世界は随分とつまらなくなってしまった。
しかし、人間たちは今の方が良いと思ってるみたいだな。

俺は好きだったよ。魔法に溢れた混沌と自由の時代、しかしそれでいて平穏な時代。

暁時代、俺は《魔法使いギルド》のエントランスがお気に入りだった。
当時は、エントランスがそのまま待合室になっていてね。依頼を待ってる暇人の魔法使いが常に控えてたんだ。旅の話を聞くもよし、ボードゲームに誘うもよし、見込みのあるやつには幸運の魔法をかけてやるもよし。ギルド付きの妖精とはいえ、顔は明らかにしてなかったからな。俺を魔法使いだと思ってた奴がほとんどだった。素知らぬ顔して依頼を手伝ったりもしたさ。

誰もエントランスにいない時は、受付の子にちょっかいかけて、面白そうな依頼を物色だ。ギルドが開業したての頃は、失せもの探しが多かったかな。一番面白いのは、世界の果てを超えるための挑戦的な道具の依頼だが、だいたいは物持ちを良くするとか、商売繁盛、学業成就、医療系の霊薬かな。あの頃の人間が使う魔法は、すぐに解けてしまうささやかな魔法ばかりだったから、そう派手なものは多くなかった。迷子防止、失せもの防止、何でも防止するのが流行りの頃もあった。お守り関係の依頼には、宗教団体に文句をつけられてさ。随分と揉めたよ。

一般の民家に不思議な生き物が迷い込んでくることもしょっちゅうで、野生に返すための依頼とか、侵入防止の依頼も多かった。害獣が目立ち始めたのは、開拓が活発になった頃か。魔法具を使いこなす、害獣討伐専門の狩人が現れた。俺も真似事をして遊んでいたんだが、当時のペトラにバレてからは公認の手伝い妖精にされちゃってね。はっきり公認にされると面倒になるんだよな……筆頭狩人のお供をやった時は、なかなか面白かったがね。

戦乱の時代、回顧

良い時代だったんだが、世界が広がるにつれ、魔法による争いの種が増えていった。
それでも、《大いなる魔法》の消失までは、程よく危険で、そこそこ平穏な世界だったんだが……

人知を超えた巨大な古代魔法が、世界の平穏を守っていたって説な。ああ、本当だと思うぞ。俺はこの目で見たんだ。正確には、それが消えたのを見た。魔法戦争の皮切りになった例の事件だよ。有名だろ?

人間の目から見た話だと、亜空間から流れ出る魔法の力が突然消失した少し後に、爆発的に溢れたように見えたらしいな。その後、一部の人間が急に狂暴になり、世界各地で大量虐殺事件が起こった。

俺たち妖精族は、詠唱の消失を見た。

古代から連綿と続いてきた大地の詩が、突然、消えたんだ。それまでは、それが魔法だってことさえ分からなかったが……消えた瞬間に、大勢の妖精が気づいた。

その先は、右奥の棚から歴史書を出して読めよ。

俺は思い出したくないね。グランマたちが沈黙の霧を降ろすまで、妖精も、人間も、随分と死んだんだ……
プランタンで血を見るのは、もう御免だ。

もっとも、世界中に精神干渉の魔法を振りまいたことが本当に良かったのかどうかは、難しいところだ。
なあ、魔法使い。君も、そう思えるなら良かったんだがな。

Notes.

  • 最初期、人の手で扱える魔法はささやかなものだった
  • 自由な魔法に溢れた時代、世界の平穏を守っていた《大いなる魔法》が存在した
  • 《大いなる魔法》の消失により、世界各地で大量虐殺事件が起こり、そのまま戦乱の時代へと移行した
  • グランマたちが結託して精神干渉の魔法を展開し、戦乱は終結した